<2004/05/24>
介護保険の初の本格的な制度改革に向けた議論が、ヤマ場を迎えている。焦点は、障害者福祉の支援費制度と介護保険の統合、そして被保険者の範囲の拡大だ。日本医師会の野中博常任理事は「まだ介護保険制度の検証が十分でない状態で、障害者に適正なサービスを提供できるのか」と懸念、統合は時期尚早との見方を示す。
―ホームヘルプなど、障害者福祉の支援費制度にあるサービスで、介護保険と重なる部分は一緒にしようという議論が進んでいます
「同じ介護サービスだから、というのは、一つの考え方としては理解できる。だが適正な給付ができるのか。
医療保険では、医師が裁量権を持って治療方針を決定し、適正な医療が提供されていく。一方の介護保険は、医師やケアマネジャー、サービス提供事業者などあらゆる専門職が組み合わさって、生活支援に向けた適正なサービス給付
を図るものだ。このケアマネジメントの手法が、(高齢者向けにも)まだ確立されていない現時点で、障害者を含めるのはどうなのか。統合は早すぎると思う」
―具体的には
「たとえば、要介護認定の審査に必要なかかりつけ医の意見書。私自身、重度身体障害者の意見書を急に頼まれ、苦心した経験がある。地域の医師は基本的に、病気とかケガの部分でしか患者さんに関わっていない。障害者の生活支援という視点で意見書を書けるだろうか。高齢者介護と障害者介護は、手法や抱えている問題が違う。似て非なるものだ。
まずは現行の介護保険制度をきちっと検証すべきだ。障害者の方もケアマネジメントを確立して、それを介護保険でできるのかを議論すべき。統合を急ぐと、せっかくできた(介護保険という)制度を壊すことになりかねない」
―統合が急がれる理由のひとつに、障害者の在宅サービス需要の増加があります。特に精神障害者は、長期入院の解消のためにも、在宅支援の充実を求めていますが
「精神障害の分野は、まだまだ医療でやるべきだと思う。精神障害者は施設に収容・隔離しなければ対応が難しいという現状はやはり問題で、在宅に戻って生活してもらえる体制を整えることは必要だ。その支援をどうしたら良いか、ケアマネジメントを考えていかねばならない。だがそれは、高齢者の介護とは手法が違うと思う。介護保険は、まだその辺を任せられる土壌ではないのでは」
―制度改革のもうひとつの焦点は被保険者の範囲の拡大です。現行の40歳以上を20歳以上に引き下げる方向で、保険料負担の増える経済団体は強く反対しています
「社会の連帯とか、国民保険制度を守る一端として、医師会としては国民に(保険料負担を)理解してもらうようにしなければいけないと思う。自分たちの安全保障という意味で理解して欲しい」(JMA
PRESS NETWORK・05/24)