公益社団法人日本精神保健福祉士協会 刑事司法精神保健福祉委員会 主催

<刑事司法福祉ZOOM勉強会>
「【刑事】司法に福祉が必要となったわけ」 終了後のご報告

第1回(10月3日開催分)

【参加者の感想】

 今回始めて司法福祉の勉強会に参加しました。私は医療機関に勤務しており、支援を担当している方の中には、多くはありませんが犯罪加害者や被害者の方がいます。そういった人たちへの理解を深めるために、司法福祉のことを「まず、知りたい」と思ったのが参加の動機です。

 勉強会では、「司法福祉」とは「司法と福祉の連携」という考え方を知りました。犯罪を起こした方の中には、孤立や困窮等生活上の困りごとを抱えている方が多いそうです。「生活上の困りごと」に対しどうしたら良いのか一緒に考えるのは、まさにソーシャルワーカーの役目です。そういった人たちに対し、私たちの力を届けられないのは悲しいことだと思います。司法と福祉が協力し合い、1人の人を支えていくことが当たり前になるのが理想だと感じました。

 私はリモートで研修を受けるのも初めてでしたが、問題なく参加することができました。気軽に参加できた点、遠くの県で活躍する仲間と顔を合わせて意見を交わすことができた点が良かったです。コロナ禍では離れた仲間と会うことが難しいため、こういった機会があるのはありがたいです。

 次回勉強会も参加して、司法福祉のことをもっと知っていきたいと思います。

(精神保健福祉士経験7年 静岡県支部 川島茉己)

  


【講義後の質問と回答】

テーマ:「【刑事】司法に福祉が必要となったわけ」
講師:國學院大學 法学部 准教授 安田恵美 先生

 

1) ヴァルネラビリティについて、もう少し勉強していきたいという意見がありました。

(回答者:安田先生)
 今回お話した「ヴァルネラビリティ」は、現在「困っている」「トラブルに直面している状態」というよりも、「トラブルに直面しやすい状態」を説明する際に用いられる概念です。詳細はすでに諸研究において示されてきているところではありますが、ここでは、古川孝順先生による『社会福祉の新地平』(2008年出版)で示されている「社会的ヴァルネラビリティ」の整理をご紹介したいと思います。

 @生存に関わる問題、A健康に関わる問題、B生活に関わる問題、C尊厳に関わる問題、Dつながりに関わる問題、Eシティズンシップに関わる問題、F環境に関わる問題

 これら7つに分類されています。「ヴァルネラブル」であるがゆえに、トラブルに直面するリスクが高まり、「なしうること」が限定されうる。そこから、就労を通した生計の確保や、就労を通した社会参加が困難になり、社会的排除プロセスに乗せられやすくなる、というように整理することができます。この整理を用いて、勉強会では、高齢出所者等の「社会的排除プロセスへの陥りやすさ」をご説明しました。

 

2) 「社会参加の具体的な展開は?」

(回答者:山田真紀子)
 地域生活定着支援センターでは、高齢者や障害があって出所後に帰る場所がない人を支援しています。帰る場所がないということは、社会で待っている人がいないとも言えます。生きてきた足跡さえよくわからない人もいて、何十年も住民票を設定したことがない人もいます。

 そのような状況の人の社会参加をサポートするためには、まずは本人の希望を元に、犯罪傾向、刑務所での様子、生活歴、医療情報、障害特性、さらには社会生活の情報があれば収集し、あらゆる角度からアセスメントした上で、出所後の生活プランを立てます。

 釈放後すぐに福祉サービス利用を必要とする場合には、入所中から介護保険や障害者手帳、サービスの申請を行い、年金の確認、住民票が抹消されている人は戸籍の取り寄せなど、本人に代わって様々な手続きを行います。また、施設やグループホーム、見守り付住宅など、再犯防止が第一義とした監視的な体制ではなく、窮屈にならない程度の見守りを心がけています。生活場所を中心に、計画相談、日中活動、人によっては生活保護の事前相談を行い、直接支援するサービスや人を調整し、必要に応じて受刑中から面談を重ね、少しずつ信頼関係を構築します。

 出所した後の生活は、地域の支援者が主体となって生活を支えます。多くの人が、慣れるまでに少し時間はかかりますが、新たな生活を歩み、時に犯罪行為に及んでしまう人もいますが、たいていの人が軽微な犯罪で、社会にとどまり続けることができていています。罪を犯してしまったことも丸ごと受け止める支援の反射的効果として、犯罪の防止になるという視点が重要だと思います。中には、こんな生活じゃなかったと、何も告げずに居なくなる人もいて支援者が落胆することもありますが、不満をぶつけてくれる人には、とことんまで本人の不満や希望を聞いて、別の生活を準備することもあります。

 

3) 「司法」と「福祉」の違いを最も感じた言葉

(回答者:合田舞香)
  「処遇」と「支援」の違いだと思います。処遇は本人の資質や問題の傾向を見極めたうえで、制度にのっとり行われるもので、刑務所内では「(職員が本人に対して)〜する」、「本人に〜させる」という表現が度々聞かれます。一方で、支援は皆さんもご存じのとおり、本人の同意やニーズにそって提供されるものです。「処遇」をしてきた司法の世界で福祉職が「支援」として本人に関わろうとした時、司法と福祉でお互いがどう理解して連携をとっていくのか、いまだ課題であるように感じています。(以前、司法関係者から「本人に福祉的な支援を受けさせる」という言葉を聞くことがあり、違和感がありましたが、最近は聞かなくなってきました。お互いの連携のなかで理解が進んできたように感じます。)

 

4)窃盗の理由の節約のためというコメント、フランスの社会参加制度の現状など伺えればと思いました。

(回答者:安田先生)
 窃盗の理由に関するデータは、平成30年版犯罪白書から引用しました(犯罪白書は、法務省のHPで公開されています)。これによると、高齢の女性において「節約」のために万引きを行ったと回答している人が比較的多いようです。なぜ、高齢女性が「節約」のために万引きをすることが多いのか、については、犯罪白書のデータからはよくわかりません(さらなる調査が必要かもしれません)。勉強会では、お財布にお金が入っていて、知人もいる状態も、「生活困窮」といえるのではないだろうか?という問題提起をしました。「お金がなく身寄りがないから、衣食住を確保すべく刑務所に入るために犯罪をした」という公式では説明しきれないケースには、どのような対応が必要なのか、ということについて、勉強会にご参加いただいたみなさんにも、是非考えていただきたいところです。

 フランスの「社会参加」ですが、これは「社会的排除」という概念の対概念で、具体的な制度を指すものではありません。生活困窮者支援、求職者支援、そして刑事司法に置かれた人々への対応等々、様々な法制度に登場します。ここでは、本人の主体的な「参加」が重要視されています。刑事施設に拘禁されている人々に対する社会参加を促進するための取組としては、家族のつながりの維持(アクリル板なしの面会のみならず、外出・外泊制度を用いた家族の行事への参加も可能です)、施設内での就労支援や文化活動などがあります。もっとも重要なものとしては、閉鎖施設への拘禁(24時間鍵がかかる施設に拘禁し続けること)が最終手段とされ、その他の形での刑罰執行もなされています。この点については、井上 宜裕 , 金澤 真理 , 寺嶋 文哉 , 徳永 元 , 安田 恵美「フランス刑事施設等参観記録」国学院法学 57(3)(2019)で紹介していますので、よろしければご参照ください。

 

5)「司法と福祉の領域は遠い」と話が合ったが、福祉は何をすべきか、どのように周囲のソーシャルワーカーと共有していくべきか

(回答者:合田舞香)
 司法領域での福祉の役割のご質問と理解して、回答させていただきます。
 触法の方に支援者として関わるからといって、福祉の支援者が過剰に「再犯防止」を抱え込む必要なないと考えています。もちろん、彼らの背景は理解しておく必要があると思いますし、それらをどう見るのか(犯罪内容を聞いた時は善悪の判断に捉われがちになりますが、そこは福祉的な視点を忘れないようにする等)は重要だと考えます。結果として、罪を犯してしまった彼らの「生きづらさ」がどこにあったのか、「生きづらさ」を軽減や解消する方法はないかということを本人ともに考えるというスタンスをもつことは、刑務所内の福祉職も地域の精神保健福祉士も変わらないでしょうし、司法関係者とはまた違う視点からのアプローチとなるため、精神保健福祉士が介入する意義でもあると考えます。
 周囲のソーシャルワーカーとの共有については、まずは罪を犯してしまった人の中にも福祉的な支援を必要としている人がいるということを知っていただくこと、関心をもっていただくことが第一歩だと考えています。

 

6)自由刑の裁量的執行停止について、詳しく知りたい

(回答者:安田先生)
 自由刑の裁量的執行停止は、刑事訴訟法482条に規定があります。
 懲役、禁錮又は拘留の言渡を受けた者について左の事由があるときは、刑の言渡をした裁判所に対応する検察庁の検察官又は刑の言渡を受けた者の現在地を管轄する地方検察庁の検察官の指揮によって執行を停止することができる。
1 刑の執行によって、著しく健康を害するとき、又は生命を保つことのできない虞おそれがあるとき。 
2 年齢70年以上であるとき。
3 受胎後150日以上であるとき。
4 出産後60日を経過しないとき。
5 刑の執行によって回復することのできない不利益を生ずる虞があるとき。
6 祖父母又は父母が年齢70年以上又は重病若しくは不具で、他にこれを 保護する親族がないとき。 
7 子又は孫が幼年で、他にこれを保護する親族がないとき。
8 その他重大な事由があるとき。

 この措置は検察官が決定するのですが、それについては、刑事施設長、受刑者、受刑者の関係者が検察官に上申することができます(執行事務規定31条)。実際適用されるケースはごくわずかです。死期が迫っているときや、一時的に外部の医療機関で治療を受ける際に用いられているようです。なお、執行停止中は、残りの刑期は減りません。ですので、執行停止期間が長期にわたるばあいには、その間ずっと「受刑者」という身分のままとなります。執行停止期間中に恩赦が認められれば、その限りではありません。

 

7)「司法and福祉」という考えが広がればいいという感想と、出口支援にかかわってみたいという意見が出ました。

(回答者:山田真紀子)
 出口支援にかかわってみたいという方、ぜひご協力よろしくお願いいたします! まずは、お近くの地域生活定着支援センターにお気持ちを伝えていただくだけでも大変ありがたいです。罪を犯した人を地域につなぐにおいて、社会の偏見や支援の困難さから、負い目や引け目を感じていることが正直なところです。社会側が引き受けて当然だろうという姿勢ではなく、本人を支えるチームとして一緒に課題を乗り越える協働を求めており、「出口支援にかかわりたい」という気持ちを示してくださっていれば、私たちも相談しやすくなるためです。
 各センターでは、ネットワーク作りのための会議や勉強会の情報もあります。また、当法人でもさまざまな勉強会や講義なども予定していますので、ご参考までにご覧ください。 https://yorisoi-osaka.jp/

 

8)グループ内において質問をとりまとめることはできませんでした。精神科医療機関で働いている(働いていた)参加者ばかりのグループにおいて出たのは、「司法とのかかわりの難しさ」ということでした。鑑定入院中の方の生活課題にSWとして何ができるのか、刑務所からすぐ入院してきた方の生活課題に支援をしようとしてもその方が希望しない場合の支援の難しさ、といった話が出ました。特別調整においても本人が希望しなければ刑期内での支援はなされないものとなっている話もでました。司法と福祉の連携が必要という話で終わりました。

(回答者:合田舞香)
 刑務所内に福祉職が配置になったからといって、全ての障がいや高齢の方に支援が行き届いているわけではないのが現状です。やはり、病識が乏しい方や「人の世話になりたくない」や「自由でいたい」等、様々な理由から治療の継続や福祉的な支援を必要としない方はいます。しかし、私たちが行うことは支援なので、本人に強制することはできません。地域社会で生活を送るうえで、選択肢の一つとして福祉的な支援があるということをまずは本人に伝えます。刑期の中で様々な角度からアプローチをしていきますが、満期釈放の時に困った時の相談先(保護観察所や地域生活定着支援センター、地域の相談窓口等)を本人にお知らせして、見送らざるをえない方もいます。

 ただ、そういった方がいる一方で、これまでの不遇な生い立ちや大人になってからも上手くいかない日々の中で、刑務所にたどり着き、「これまでの苦しい生活から抜け出したいがどうしたいいか分からない」という切実な思いを抱えている方がいることも事実です。私ができることは、福祉的な支援が必要だとしている方にタイムリーに介入できるよう、日々心掛けています。また、複雑に生活(人生)の課題が絡み合っている方も多く、多機関の方の関わりが必要となるため、触法の方に対する理解が進むよう、地域の関係機関への研修や協議会をとおして、理解と協力を求めています。

 


(回答者:山田真紀子)
 “本人の希望”をどう受け止めるのか、とても難しい課題だと思っています。ただ、最近私が業務をする上で一つ思うことが、「その言葉そのままを受け止めることは、本人の自己決定を尊重していることになるのか?」ということです。 

 先日出合った60代の男性は、読み書きができない人でした。刑務所内で知能検査をして、療育手帳B1(大阪では三段階の真ん中)を取得しました。窃盗で何度も受刑を繰り返しており、人生の半分は刑務所で生活していました。日常のやり取りはできますが、感情を聞いたり、具体的な希望の話になると、社会での生活経験の少なさや、且つ読み書きができない人の語彙力がこれほどまでに少ないのかと改めて実感させられています。

 SWであれば、直接福祉サービスにつなぐとか、何か次の一歩が大きく変わるとか具体的な変化を促したいところですが、本人の目線に立って一緒の方向を見て話をするだけでも、本人にとって何かが変わるのではないかと思っています。

 

★参考文献のご紹介
団士郎先生(児童相談機関、障害者相談機関の心理職、元立命館大学教授)、漫画の「背中の夕日」 https://www.yondemill.jp/contents/3711
「この街のどこかに」でも掲載 https://yorisoi-osaka.jp/action/konomachi/

 


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