公益社団法人日本精神保健福祉士協会 刑事司法精神保健福祉委員会 企画運営

<刑事司法福祉ZOOM勉強会>
「医療観察制度(前編)〜導入の背景と運用の現状」 終了後のご報告

第5回(2021年7月31日開催分)

【Q&A】

Q1 心神耗弱でも刑法に問われるのはどんな時ですか。

A1 刑法第39条は、第1項で、「心神喪失者の行為は、罰しない。」、第2項で、「心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。」と規定していますので、罪を犯した人が、裁判で心神耗弱の状態であると認められた場合、法定刑が軽減されます。例えば、窃盗の法定刑は10年以下の懲役又は50万円以下の罰金ですので、心神喪失の場合は無罪となり、心神耗弱の場合は、健常な方が懲役3年の言渡しを受ける場合は、それよりも軽減される(減軽)こととなります。
 また、罪の種類は問われませんので、殺人の罪でも窃盗の罪でも減軽されます。
 なお、「減軽」と「減刑」の違いについて説明します。「減刑」は、恩赦法に定める「恩赦」の一つで、刑の言渡し(有罪判決)を受けた者に対して、政令で罪もしくは刑の種類を定めて刑を軽くし、または特定の者に対して刑や刑の執行を軽くすることで、「減軽」は、裁判所が刑を言渡す際に刑を軽くすることです。減刑も減軽も「刑を軽くすること」ではありますが、減刑と減軽は、刑の言渡しの前か後かに違いがあります。

Q2 塀の中には、知的精神障害の方が大勢と聞きますが、医療観察や情状酌量にならないのか。なぜ入所しているのか。

A2 令和2年版障害者白書によれば、人口千人あたりの精神障害者は33人(3.3%)、知的障害者の数は9人(0.9%)です。
 受刑者に占める知的障害者の割合は、令和2年版犯罪白書によると、入所受刑者(1年間で刑務所に入所した人の数)でみると、令和元年に入所した受刑者は、総数17、464人に対し、精神障害があると診断された人は2、578人(14.8%)で、そのうち知的障害と診断された人は256人(1.5%)ですので、入所受刑者に占める精神障害者は人口の4.5倍、知的障害者は約1.7倍ですので、一般社会に比べてその割合が多いと言えますが、入所受刑者に占める精神障害者には、発達障害や精神作用物質による精神障害、気分障害も含まれていることに留意する必要があります。
 また、刑法第39条の規定により、罪を犯したときに心神喪失の状態であれば無罪となり、心神耗弱の状態であれば刑が減軽されますが、医療観察の場合は、そうした方のうち、殺人などの重大な他害行為をし、検察官が申立てをし、裁判所の決定を受けた人に限られます。
 さて、「情状酌量」とは、刑の減軽の一種で、刑法第66条に「犯罪の情状に酌量すべきものがあるときは、その刑を減軽することができる」と規定されているもので、法定刑または処断刑の最下限でも、犯行時の客観的・主観的事情や、犯行前後のあらゆる事情からみて、なお刑が重すぎる場合に、裁判官の裁量により犯罪の具体的情状に即して刑を言い渡しうるというものですので、情状酌量は、障害の有無にかかわらず、その情状によって裁判官が判断するものです。
 これに対し、同じ減軽でも、刑法第39条の心神耗弱は、法律に定められている減軽するもので、法律で定められた減軽と、裁判官の裁量による減軽という意味で異なるものです。

Q3 金子先生の話で月に1回面会をしているという話があり、その効果の話もありました。その面会頻度は社会復帰調整官による違いなのか、件数とマンパワーの関係で地域差があったりするのか。

A3 面接の頻度については、基本的には担当する社会復帰調整官の判断に委ねられており、各社会復帰調整官が、処遇の状況や庁の方針を踏まえた上で面接の頻度を決めています。また、社会復帰調整官の人員配置については、すべての保護観察所において2名以上の社会復帰調整官が配置されており、概ね事件数に比例した人員配置になっています。そのため、ひとりの社会復帰調整官が担当する事件数は、入院及び通院の事件を合わせて7〜12件くらいが平均的です。面接頻度が減少する要因としては、入院の場合は、対象者が県外の病院に入院していること、通院の場合は、社会復帰が進み面接の必要性が減少したことなどが挙げられます。

Q4 被害者支援の開始に伴って、被害者の支援者との連携などはあるのか。新たな制度が被害者支援にどのようにつながっているか。

A4 医療観察制度における他害行為の被害者に対する制度としては、次のものがあります。
 @ 心神喪失者等医療観察法に基づく制度として、対象者の入院又は通院に関する審判では
  ア 被害者やご遺族等の方々による審判の傍聴の制度
  イ 被害者やご遺族等の方々に対する審判結果の通知の制度
  があり、検察庁においても審判の申立てをしたことについて、被害者やご遺族等の方々に情報提供をすることとしています。
 A 対象者の処遇の状況等に関する情報提供(平成30年から開始)
 被害者やご遺族等の方々の申出がある場合、心神喪失者等医療観察法の審判で入院決定・通院決定を受けた対象者について、その後の処遇の状況等に関する情報提供を受けられます。
 情報提供を受けられる事項は次のとおりです。この情報提供を希望される場合は、保護観察所の社会復帰支援室長にご相談ください。
 ・対象者の氏名
 ・対象者の処遇段階(入院処遇、地域社会における処遇、処遇終了)及びその開始又は終了年月日
 ・対象者の事件が係属している(係属していた)保護観察所の名称、所在地及び連絡先
 ・地域社会における処遇中の保護観察所による対象者との接触状況(直近6か月間における面接等の回数)
 以上の制度の一環として、被害者支援の立場の方々との連携が規定されてはいませんが、被害者の方が情報提供を希望して保護観察所に相談される際に、民間の被害者支援センターや、市町村機関等に紹介するなどの支援を行うことは考えられます。

Q5 医療観察法の対象となった方で、ベースに知的障害がある方については、その判断が難しいのではなないか。

A5 知的障害のみを有する人が申立の対象になることはほとんどありませんが、知的障害に重複して他の精神疾患がある人が申立の対象になる例は散見されます。通常、審判期日の数週間前に「事前カンファレンス」が行われ、裁判官、精神保健審判員、精神保健参与員、鑑定医、社会復帰調整官、付添人、検察官が処遇の見通しについて協議します。このとき、知的障害がある人は、「治療反応性(治療の効果が期待できるか)」の有無が争点になることが多く、鑑定書を基に協議します。協議の結果、知的障害によって治療効果が著しく制限されることが予想される場合は、不処遇決定が妥当との結論に至りますが、医療観察制度の処遇を通じて、総合的には一定以上の効果が期待できると思料される場合は、入院または通院決定が妥当との結論に至ります。最終的な審判決定は、裁判官及び精神保健審判員が下しますが、知的障害があることによって、治療反応性の有無を判断しづらいケースなどでは、事前カンファレンスにおける協議が重要な意味をもちます。

Q6 医療観察制度の対象が成人となっていることから、未成年の人は少年法に任せていいのか。また、少年法と医療観察との関係は今後どうなっていくのか。

A6 少年法第20条第1項には、少年が死刑・懲役・禁錮に当たる罪を犯した場合に検察官送致ができる規定(いわゆる逆送)があり、さらに、同条第2項には、故意に人を死亡させた罪の場合は、原則として検察官送致がなされる規定(いわゆる原則逆送)がありますので、少年が検察官送致になれば、手続上は検察官から医療観察制度の申立が可能であり、少年であっても、医療観察の対象にはなり得ます。
 他方で、少年法第20法第2項ただし書きには、「調査の結果、犯行の動機及び態様、犯行後の情況、少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるときは、この限りでない。」とあることから、同法第24条第1項第3号の少年院(少年院法第4条第1項第3号に定める第三種少年院(以前の医療少年院))送致の決定をすることにより、当該少年に対する医療の措置を講じることも可能です。
 なお、令和4年4月の少年法改正により、18歳・19歳の特定少年については、いわゆる原則逆送の範囲が、従来の故意に人を死亡させた事件から、有期1年以上の懲役・禁錮に当たる罪の事件に拡大されます。

Q7 対象者の子らのサポートはどうしているのか。

A7 対象者は、逮捕後に身柄を勾留される場合がほとんどであり、特に鑑定留置された場合は、2〜3か月間身柄を勾留されます。当然、その間は実子を養育することができないため、対象者に代わる養育者がいない場合は、児童相談所や市町村の主管課等が介入し、必要な措置を講じます。保護観察所は審判決定後から処遇に加わるため、養育者不在の実子に対しては、すでに何らかの措置が講じられた状態です。実子に対する措置は、児童養護施設や乳児院への入所、または里親制度の利用がほとんどです。保護観察所は、対象者の社会復帰に向けて処遇を調整する役割を担っており、そのため、実子の現況を把握するとともに、ケア会議等において関係機関と今後の親子支援について協議し、関係者及び関係機関が緊密に連携できるように連絡調整するなどしています。

Q8 30分以上かけて指定通に通っているが、その人らしい生活を送るためには、もっと近くの医療機関に通うことはできないのか。

A8 対象者の視点に立ったご指摘をいただき、ありがとうございます。ご質問のケースについては、対象者は指定通院医療機関への通院が義務付けられているため、ケア会議において、通院の必要性と対象者の負担を考慮して通院頻度を調整することが最も現実的な解決法と思われます。過去に他県の社会復帰調整官から聞いた話ですが、ケア会議に出席した支援者から、「通常は最寄りのクリニックへ通院し、遠方にある指定通院医療機関へは数か月に1度通院してはどうか」との提案があったそうです。こうした場合、社会復帰調整官は、「法律上、厚生労働省が指定した医療機関へ通院してもらう必要がある」と返答する他ありません。指定通院医療機関の偏在化解消は、医療観察制度を運用する上で最も重要な問題のひとつです。制度開始以来、一貫してこの問題に取り組んでいますが、現状において偏在化が解消されていない地域もあり、引き続き指定通院医療機関の拡充に向けた取り組みが必要であると認識しています。

   


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