お知らせ

<2020/09/10>

【構成員の皆さまへ】「新生存権裁判」を傍聴して

 生活扶助基準の引き下げの撤回を求める集団訴訟が全国29の地裁で行われており、本年6月には名古屋地裁において全国初の判決で原告が敗訴しました。調べてみると、原告は北海道が一番多く、しかも、その多くは精神疾患をお持ちの方たちであることが分かりました。札幌地裁においては2014年11月28日に訴訟提起、2015年3月に第1回目の期日が開かれました。以後、およそ3か月に1回の頻度で現在までに22回の期日が開かれています。かくも長きに渡り、原告は自分たちの「生存権」をかけて必死に戦ってきていたのです。

■裁判の傍聴というソーシャルアクション

 本協会は、名古屋地裁での判決を受け、声明文や要望書の発出とともに、すべての構成員に対して裁判傍聴という形での応援やカンパを広く呼び掛けています。この呼びかけを受け、私は裁判を傍聴して原告である当事者の生の「声」を法廷で聴くことが直接的な応援につながるのではないか、また、実は一人でもできる「ソーシャルアクション」ってごく身近にあるのではないかと思いました。そこで「いのちのとりで裁判全国アクション」のHPをたどり、北海道で原告を支えている弁護士に連絡を取り、本訴訟の詳細を伺いました。8月26日(水)に23回目の期日が札幌地裁で開かれることを知り、すぐにスケジュールを確認しましたが、私自身はどうしても都合がつかなかったため、当院の相談室内で勤務調整を図り、本協会の構成員でもある2名の精神保健福祉士(佐賀良太・黒田健介)に業務として裁判を傍聴するよう依頼しました。

■2名の精神保健福祉士の感想

 傍聴後、2名から以下の報告を受けました。

<佐賀良太(精神保健福祉士経験14年目)>
 傍聴することが決まってから、本訴訟にかかわる過去の職能団体の声明文や新聞記事に目を通しました。今回の業務命令を受け、自分が担当するクライエントに影響は出ていないか、保護費の引き下げが生活にどう影響を与えているのかを真剣に考える機会となりました。傍聴後、担当しているクライエントに今欲しいものや経済的に困っていることがないか気になり聴いてみました。「老眼鏡が欲しい」と穴の開いたジャージを着て話された方、「時計が欲しい」と希望した7年間入院している方、同じ下着や衣類ばかり着ているのに新調することを遠慮している方などがいました。私自身、まずは身近な方々の声を拾い上げていかなければと強く思いました。そして、精神保健福祉士として実践する場は職場だけではないことを改めて感じたと同時に、北海道の多くの精神保健福祉士にもこの訴訟のことを知ってもらい、社会的弱者や生活困窮者に関心を持ち、担当するクライエントの声を改めて聞いてみてほしいと思いました。

<黒田健介(精神保健福祉士経験3年目)>
 「お金がなくて家族の墓参りに行くこともできない。生活保護受給者はお墓参りにも行けないのか。生活保護費が削られるということは命を削られるのと一緒だ」という原告の発言を聞いて、その言葉に重みを感じました。一連の証人尋問のやり取りからは、自身の生活の苦しさやその辛さを言語化することが難しい方々が多くいる印象も受けました。だからこそ、原告代理人(弁護士)の力を借りて公に自分の思いを訴えていくことの重要性を認識しました。今回の傍聴を踏まえ、受給者の多くは生活保護費の引き下げにより食費等を切り詰めて生活せざるを得ず、「生活保護を受給しているのに困窮している」という実態が広がっていることを強く感じました。今後は、生活が苦しかったり、生活に困窮していることを自覚はしていても、それを言葉にできない方々やそれを当たり前だと思って声を上げない方々の代弁者となれるよう、一人ひとりのクライエントの声に真摯に耳を傾けていきたいと思いました。

■支援ネットワークとこれから

 支援者らとの電話でのやり取りや二人の傍聴を経て、原告側の弁護士や本裁判の支援団体の方々からは、「ソーシャルワーカーが応援してくれるなんて心強い」、「精神保健福祉士がこの裁判に関心を持ってくださったというだけで救われた」等とたくさんの感謝の言葉をいただきました。また、そこから「全国生活と健康を守る会連合会」等の支援団体との新たなネットワークが構築され、今後はこの裁判はもちろん、生存権の保障をめぐる様々な当事者活動の情報提供などをしていただけることとなりました。その情報を元に、適宜地元の協会などに働きかけていきたいと思います。

 札幌地裁における次回(24回目)の裁判は11月です。ここでは「結審」が予定されています。そして、2021年3月の最後の期日(25回目)において「判決」が申し渡される予定です。名古屋地裁の判決と同じ結果にならないことを願うばかりです。そこで本裁判(札幌地裁)は一旦終結しますが、全国各地での裁判は続いています。

 私は、今回の生活保護にかかる裁判だけではなく、旧優生保護法(強制不妊手術)に関する裁判の傍聴も行っていくつもりです。引き続き情報を集めて精神保健福祉士全体で共有していくこと、裁判の傍聴やカンパによる直接的支援など、今からでも私たちにできることはたくさんあると思います。地域社会に目を向け、個人でもできるソーシャルアクションを実践し、精神障害者を中心とした「社会的弱者」と呼ばれる方々の声に耳を傾け、彼らに寄り添っていく姿勢を一緒に「行動」で示していきませんか?

公益社団法人日本精神保健福祉士協会
業務執行理事・理事
                          さっぽろ香雪病院 尾形多佳士

<参考>

・【重要】「新生存権裁判」への支援のお願い(2020/07/31)
生活保護基準引き下げを巡る名古屋地方裁判所判決にかかる抗議及び要望について(2020/07/31)
生活保護基準引き下げを巡る訴訟判決についての声明(日本ソーシャルワーカー連盟、一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟)(2020/07/17)


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